日本画家 木村圭吾 撮影 秋山庄太郎
新幹線の三舄駅から車で約15分、北東に位置する駿河平に、私の画室があります。
富士は間近、箱根も近く、あさ、旭光が燦々と輝くころ、東方の箱根の山々が、薄絹越しに浮かびあがり、夢幻の仙境へと誘います。


富士の取材は、御殿場から東富士五湖道路に入り、山中湖、忍野、河口湖へとむかいます。この周辺から望む富士は、比較的稳やかな山容で、冬山は純の衣装を身にまとった女王のように優雅です。標商3776 メートルの独立峰は,駿河湾の深海から測るど7000 メートルを超えます。 ヒマラヤ並みの阻界の高峰は、まさに日本の頂きです。
 十里木高原から五合目まで行くと、宝永山の噴火跡のクレーターが出現します。朝霧高原からみる大沢崩れは、激しく山肌に食い込み、とても荒々しい。
 雄大な草原の途中で、梟を飼育展示している施設に立ち寄るのが私の楽しみで、緑豊かな牧場も散在しています。
広大な山境は、変化に富み、美しい旋律を奏でながら、いのちの鼓動を伝えます。生きとし生けるものたちが躍動します。万物舞い踊る大地は、太古から未来へつづく理想郷でしよう。
 京都から離れて東京に進出してきた私が、富嶽や天下の剣・箱根に近いこの地を活動の拠点としたのは、ここが日本の要で、霊峰富士を背に、麗しい真水が湧き出る特別のパワースポットだったからです。日本画とは、パワースポットを描く行為でしょう。


 赤富士は私の重要なテーマのひとつですが、取材ポイントは、多く滝沢林道の周辺です。
富士の山肌は、その火山岩が鉄分を含むために酸化してやや赤味を带び、強い陽光によって赤褐色の輝きを放ちます。水蒸気や火山灰が烈風に舞いあがり、太陽光によって乱反射するのです。 深く神秘的な彩雲に包まれた山塊は、時々刻々と姿を変えながら、真紅の強烈きがクライマックスを迎えます。真っ赤に燃え上がる富士は数分間でピークが過ぎ、やがて薄い茶色に戻ります。
 大阪天王寺のあべのハルカスからほど近い田辺の不動尊、住吉区にある真言宗泉湧寺派の大本山法楽寺の全室51面の障壁画を完成してお披露目催事企画展を開催したのが、2001年でした。 この歴史的な大業を、新世紀を迎えて早々に、大阪大丸ミュージーアムで展観できたのは、21 世紀の指針を見定める上で、とても重要でした。駿河平での障壁画制作4年に及ぶ歳月は、偉大な富士との交信を深めてくれたと、あらためて感謝しています。

 千年桜とともに、霊峰富士がたたえる生の鼓動と尊厳、自然界の循環が奏でるいのちに対する畏敬の念を思うたびに、私は富土の伏流水のように、沸き起こるエネルギーを感じます。浄化された無限の創作意欲が次々に噴出します,
 大銀河と水の惑星、緑豊かな大地の創生こそが、宇宙と永遠にリンクして生命を育むのです。美を受信する直感、未来を切り拓く霊的な美の力を信じます。
堆積した豊穣の大地が何万年もかけて創りあげた奇跡の痕跡こそが、美の降臨を証明するのでしょう。生の気風が、いのちの芸術を育むのです。堆積する反響こそが、私にとって造形と色彩の源泉に他なりません。


2016年2月 木村圭吾